先日の東フィル定期のエントリーを書きながら思い出していたのですが、ボクが武満作品とガチで取り組んだ最初の仕事はキム・ホンジェ&東京佼成ウインドオーケストラによる Japanese Band Repertoire volume 6《シグナルズ・フロム・ヘヴン》です。
アルバムのプロデューサーから『エヴァンゲリオンみたいにしてくれ』というオーダーが出て、なんやねんと思いながらも武満の音世界とプロデューサーが読み取る時代性が重なったんだとうなぁと考え、都会のビルや空、大理石、草原に引っかかった羽根、ネガポジ反転の昴などを重層的にコラージュして行くヴィジュアルに辿り着きました。内声的な響きながら深淵な宇宙を感じさせてくれる武満の響きに近付きたい一心でした。当時はまだ事務所のMacもPhotoshopも非力だったのに、よくこんなものが作れたなと今更ながらに感心してしまいます*1。
さて、この Japanese Band Repertoire 、9作ありますが、《行列幻想》までの5作は師匠がデザインを手がけた作品、《シグナルズ〜》以降の4作品はボクが引き継いだものです。師匠がこのアルバムシリーズを、吹奏楽の枠を越えた日本人作曲家の重要なアーカイヴになると予感したかはどうかは判りませんが、YSEMという見出し明朝ながらも案外線が細い渦を巻く様な書体をキッチリと詰めてシンプルに白地に黒で配置し、左側3/4をヴィジュアルスペースに取って各アルバムコンセプトを示すというフォーマットにしたのは絶妙でした。
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師匠のデザインは新鮮さとクールさが売りでしたが、この5作を見てもそれを感じることが出来ます。とはいえ、日本語の持つ力を存分に発揮させ、クールとはいえセレクトされたビジュアルには見る者のイマジネーションを掻き立てます。
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レコーディングの現場にも立ち会わせて頂いたり、直後の定期演奏会、最終のミックスダウンされる前のテイクを幾度となく聴かせて頂きましたが、世界に誇れる音楽性と意識の高さで臨む当時の東京佼成ウインドオーケストラとその指揮者たちが紡ぎ出す音の密度に武者震いしたものです。
ノスタルジーやカタルシスやコンテストピースでしか語られかねない日本の吹奏楽の危なっかしい状況を見るにつけ、9作で幕を閉じてしまったこの骨太なシリーズの後を継ぐべく新たな作品群に出会いたいと思いますし、そういった仕事に是非とも再び巡り会いたいと思っています。