インプットとアウトプット


和歌山大学教育学部の学生によるコンサートのフライヤ・デザインを、講師の小寺香奈さんと学生とのコラボレーションで制作させていたきました。今までこういったエデュケーショナルな枠組みの中で仕事をさせていただいたことはなかったのですが、とても面白く良い体験になりました。
今回の仕事において学生は単なるクライアントとしてではなく、自分の表現について向き合ってもらい、それがプロフェッショナルの力によってどう昇華されていくのかを見て頂きたかったのです。
初学者においてアイデアを形にするという作業が大変なのは、それが実現された時の明確なイメージとそれを作り上げる過程の(しかも複数の)方法論が確立されていないからです。
今回のデザインは、多くの学生が出したアイデアの中から「真ん中に(おそらくトイ・)ピアノの形をした囲みがあり、その中に曲目が書かれ、その上部にタイトル、下部に日付と会場案内が示されたプラン」をベースに選びました。さらにタイポグラフィにおいては淡々とした雰囲気を希望しているプランがありましたのでそれを採用。
しかし学生たちはアイデアを出した時点で、この案をどの様に実現させるのが《情報の受け手に対して最も訴求力があるのか》なんて全く考えなかったと思います。
このコンサートには目的がいくつかあります。

  • 現代音楽に触れる機会が少ない国立大学の学生が実体験(実演)によって理解を深めていく(教育側の意図)
  • 和歌山大学教育学部という国立大学の学生による自主運営・入場無料の一般向けのコンサートである(情報の受け手は学内でなく一般市民)
  • 現代音楽の中でも玩具や日用品など身の回りの素材を用いて演奏する楽曲を紹介することにより、難しいと思われている現代音楽の演奏に親しみを感じてもらう(企画の意図)

これらを「一目で理解してもらう」デザインがフライヤに求められる訳です。
すると答えはシンプル。実際に使うトイ・ピアノやスライドホイッスルやオモチャのトランペットなどをメインのビジュアル(写真)に使ってしまえば良い。タイポグラフィはシンプルな表情の中にホンノリ現代美術の要素を忍び込ませば良い。それを一番ダイレクトに表現出来る可能性が高かったのがボクがベースに選んだプランです。しかしそれだけでは出来上がりません。それを実現させるためにどういった作業が必要であり、どのような工程を踏めば良いかというプランとテクニックが明確でなければ極めて困難です。しかもコンサートフライヤとしての機能から外れてはいけません。
ここに辿り着くには一定以上の経験値と知識、多数のテクニックが必要です。優秀な美大生でも相当難しいと思います。それは短い製作期間と低コストでそれを実現するという最終的なハードルがあるからです。
しかし社会に出ると、デザインに限らずどの仕事においてもこのインプットとアウトプットの作業は必要になります。しかも基本的にクライアントや顧客に損をさせる失敗は許されません。
今回ご一緒したのは音楽の専攻生であり、美術ではありませんが、演奏という表現においても全く同じことがいえます。
演奏のアイデアを具現化する、つまり他人が自分のアイデアを理解出来るように聴かせる(見せる)にはどういった表現力(や練習)が必要で、(限られた時間と予算で)何をすべきなのか・・・
彼らは教育学部ですから将来教師になる方も多いと思われます。学校教育の現場においても同じです。
授業のアイデアを具現化する、つまり生徒が自分の授業を理解出来るようにするにはどういった表現力が必要で、(限られた時間と予算で)何をすべきなのか・・・
社会に出てそれを仕事にしてしまうと失敗はなかなか許されませんが、いくらでも学生のうちならトライ&エラーが出来ますから、今のうちに四苦八苦してもらいたいと思っています。それが社会に出ての一番の財産になるからです。