退職の日


先月末の事ですが、ボクが駆け出しのデザイナーの頃からずっとお世話になっていた某出版社のデザイン課担当のSさんが定年退職されました。とは言っても定年自体は5年前で、その後はずっと委託社員として働いてこられたのですが、今回が実質上の定年退職です。
売り出し中のデザイナーとして血気盛んだった頃の私は、理不尽な出版の世界に対する不満も随分Sさんにぶつけてきました。その度に彼はニコニコしながら「まぁまぁ、いろいろあるんですよ」と私を諌めたのですが、若い私にはその真意は見えず、ただただ適当に右から左にコトナカレで流しているダメな大人な様に感じてさらに憤っていたものでした。
しかし時が経つにつれ、そうではなく、私の力を買ってくれた上で、デザインや意見がキチンと他の人(編集さんや著者さんや出版社の上層部)にも通る様に私を制御していて下さったのだという事が判ってきました。大変感謝すべきことでしたし、自分の足りなさを大変恥ずかしく思いました。
私が独立した後も真っ先に声をかけて頂いた方々の一人もSさんでした。彼から仕事を継続して頂けたおかげで、どれだけ安定したテイクオフが出来たことか。本当に感謝してもしきれません。私として出来る事はその思いに応えて良いデザインすること、それのみです。
退職されるその日はお伺い出来なかったので、花束をお贈りしました。
翌日花束を撮った写真付きのメールが、会社からではなくSさんの携帯電話から届きました。
泣きそうになりました。