新しいソーシャルメディアとしてのレコード店

紙の辞書を開いて、調べようと思っていた項目の隣の記事の方が気になって、それを読んでその中の言葉が気になってその言葉を調べてたらその隣の・・・を繰り返すうちに、新しい世界に辿り着いていることがある。
電子辞書ではそうはいかない。隣に並んでいる無関係の項目なんて見えない。
本屋もレコード屋も一緒。自分が欲しいと思った一冊・一枚の隣にある、偶然目に留まった一冊・一枚が自分の人生を変えることだってある。amazonやiTunesに出てくる「オススメ」は、過去の検索履歴から選び出された、その人の趣味趣向に沿ったモノしか出てこない。全く違う世界への扉はそこには開かれていない。
ネット文化前夜のメガ書店やメガCDショップが目指したものは、ネット文化の寵児であるamazonやiTunesそのものであり、取って代わられる宿命は必至である。当然それに沿った書籍や音楽作りをしていては、出版は紙である必要がなくなるし音楽はダウンロードで十分である。バブル時期に躍り出た、想像を絶する物量を売り上げるメガストアこそを理想型とし、その退場を「出版・音楽文化の衰退」と捉えて嘆くばかりでは本質は見えてこない。
受け手に価値を届ける手段は常にシフトするが、届けるモノの価値はシフトしていない。
多くの文化人が嘆く様に、紙の本やジャケットに納められたアルバムの手触りや重みやインクの匂いはインターネットでは伝えられない事は確かだが、原点に立ち戻れば何ということではない。送り手と受け手がお互い身の丈に併せた情報交流の場としての書店・レコード店。
かつてどこの街にもあった小さな文化発信の場としての書店・レコード店こそが、ヒューマンサイズでリアルに手触り・重み・匂いを伝えられる場となりうる。
そういう店を大宮に見つけた。大宮駅東口をずっと行った、区役所の通りの古びた建物の二階にある more records がそれだ。ウェブマガジンQeticでも取り上げられて話題になったので記憶にある方もあるかもしれない。
先日全く別件で近所を通った折に、前から気になっていたこの店に偶然辿り着き、ふらふらと心地よい店内を巡っているうちに偶然手にした一枚。それが Magdala のアルバムだった。聞くと25日夜にこの店からトーク&ライブをUSTで中継するというので本日は直接店舗にお邪魔して中継の様子を拝見することになった。
ここ数年、ボクの耳はウィンドアンサンブルやブラアンサンブルなどの管楽器主体の音楽を経て古楽やコンテンポラリなどにシフトしつつあったし、モンポウやピアソラやかつてのYMOなどに影響を受ける一方で、pupaや斎藤ネコさんや村田陽一さんの創り出す世界観に美的感覚を見出していたのだが、それらを全て受け継ぐタイプの音楽があっても良いのではないかと考えていた。
それが偶然訪れたレコード屋の「コレいいかも」と思って試聴したアルバムの隣にあったアルバムの中にあった。
スタッフの方とも話をしたんだけど、more recordsの考える店作りはまさにココにある。店舗はヒューマンサイズで目的以外でも長居出来、偶然の出会いを楽しめ、独自のサイトでも勿論アルバムを購入出来るし、facebookやtwitterやustreamなどとの親和性も欠かさない。
ボクはこの日記でも度々書いてきたけど、ネット文化が広がるにつれ、価値はモノでなくコトに確実に移っている*1。USTライブの後にMagdalaのお二人と少しお話もさせていただけた。こういった出会いのひとつひとつこそがとても重要なのだ。その場と出会いを共有する。書店もレコード店も文化を発信する場としてあるべきサイズに帰ることこそ次の道だし、これも含めてこその新しいソーシャルメディアである。

more recordsのustチャンネルはこちら

*1:アイドルと握手出来る権利が封入されたCDが売れるのは当然なのだ。