デザイナーという仕事

ところでデザイナーって、よく勘違いされるのですが、対象物を表現する仕事であって、自身を表現するアーティストではないのです。

クラシック音楽作品名辞典 第3版

クラシック音楽作品名辞典 第3版

例えば、この本のデザインを依頼された場合、どうすれば「古今東西のクラシック作品を網羅した《最もスタンダードな》辞典」に見せられるか、がデザイナーの使命であり、そのためにどういう方法論をとるか、が言わばデザイナーの力量です。浅はかな個性なるものを振りかざして仕事をしていては表現は硬直化し涸渇します。在り来たりな語法では埋没します。奇を衒い過ぎると使用する人の生活に馴染みません。世の中にある、あらゆる表現をより分け組み合わせ、その対象物が纏うに相応しい衣装を仕立てるのが仕事です。
その人自身から発せられる目映い輝きを、自身で獲得した表現で皆に味わってもらう「アーティスト」とは全く違う仕事です。
つまりデザイナーは対象物を表現し、アーティストは自身を表現します。

だから、根っからのデザイナーであるボクは自分自身を表現することが実に苦手です。いざ「自分の好きな絵を描いて」と言われてもちっともも描けなかったり、トロンボーンでソロを吹くのがちっとも上手くならないのは、そういう事なんだと思います。

因みにこの辞典、今月末発売です。この仕事において、よりジャストフィットなデザインを実現出来る方はボクよりも沢山おられると思いますが、「スタンダードな雰囲気から醸し出される、所有したときの安心感」はある程度実現出来たのではないかと思います。
さらに偶然なんですが、著者陣にはこの日記でもお馴染みの作曲家、中橋愛生さんも参加しております。なので、今回は図らずも間接的ですが共作であります。この事実が分かったとき、二人で大笑いしたことは言うまでもありません。