天野正道さんの新作「ウィンクルム=絆」(小説「アインザッツ」劇中曲)を聴いて


学研さんの「月刊アニメディア」誌に《アインザッツ》という高校の吹奏楽部を舞台とした小説が今月まで掲載されておりまして。書き手は演出家の山本寛さん、挿絵は平松禎史さんです。内容は出身高校の吹奏楽部の指揮・指導者を任された大学生の男の子が、後輩達と共に心の成長をしていく物語なのですが、この劇中に吹奏楽コンクールで自由曲として演奏される「ウィンクルム=絆」という曲が登場します。
主役の父親(打楽器奏者で吹奏楽指導者)から『高校生の頃、有名な作曲家に直談判して委嘱し、吹奏楽部をコンクールの全国大会へ導いてくれた縁起のイイ曲』として手渡されたこの曲は、今年始めに行われ、アニメディア本誌にも掲載された山本寛×天野正道対談がきっかけで、兼ねてより天野ファンであった山本さんのラブコールもあり、本当の楽曲として実現化される約束(委嘱)がされていました(それぞれ掲載号参照)。
実はボクはこの企画に全く無関係ではなく、仕込み段階でちょいと噛んでいたもんですから、有り難いことに先日行われた「ウィンクルム」のレコーディングに担当編集者サマからご招待頂きまして、お伺いさせて頂きました。
この曲は劇中の吹奏楽部によって演奏される23人の小編成として書かれており、小説にも出て来る構成がキチンと再現されています。ここら辺は現在も自ら出身校のバンド指導を現役でされている山本さんが『カッコイイ吹奏楽曲のツボ』をキッチリ押さえて書いてあるわけですが、天野さんはさらに『絆』というキーワードやこの《アインザッツ》という物語の内容も深く盛り込み、劇中曲に相応しいばかりか、期待以上の素晴らしい楽曲になりました。
全体を支配する雰囲気は青春の切なさだったり葛藤だったりするリリカルなモチーフなのですが、仲間や愛する人の絆を信じて音を重ねて行けば、ささやかであっても夢は叶えることが出来る、そういう確かな思いにさせてくれる音楽です。
ともかく23人編成であることを感じさせないよく響くオーケストレーション、高校生でもひと夏頑張って練習すれば十分成果が期待出来る難易度(トランペットソロなど個人的見せ場はありますが)、吹奏楽ファン垂涎のコレデモカな天野節の連続、巡るめく曲調、派手なフィナーレ。これは酒井格さんの名作と誉高い《たなばた》に肩を並べる人気を誇る作品になる予感大です。
レコーディングがされた、ということは近々、皆さんの元にも届けられるのではないかと思いますし、ひょっとしたら思わぬところで耳にされる機会に巡り会うかもしれませんよ。
ボクがこの曲の聴かせどころを一つ挙げろ、と言われたら・・・そうですねぇ、フーガのところですかねー。乞うご期待!