フォント特集

昨晩のNHK 鑑賞マニュアル 美の壺 file207「フォント」はご覧になりましたか?
ボクが日々格闘しているフォントの話をふだんから意識されていない方向けに親しみ易く解説されていましたし、業界の数年来のトピックにも触れられていました。祖父江さんのお人柄も出ててなかなか面白く、西塚涼子さんによるかづらきフォントはヘルマン・ツァップの名作「Zapfino」の発想にも通じる自由さが気持ちいいです。
ところで、テレビが「フォント」を取り上げるのにはちょっと理由がありまして。今年の7月24日で地上派アナログ放送が終了しデジタル放送になる訳ですが、このデジタル放送、皆さんご存知の通りアナログと見た目で全く違うのが画素数です。画面の細かさですね。ピクセル換算するとアナログは720×486ピクセル、地デジは1440×1080ピクセル。およそ倍違います。
アナログ放送の頃、テロップなどの文字を表示するのは画素数が少ないため困難であり、フォントもバリエーションが少なく(特に明朝系は横線が細いので小さいと非常に厳しい)、その上袋文字にしたり影付きにしたり、読み易くするのに一苦労でした。開発費も莫迦になりません。そういう訳でテレビ業界は少ない専用書体を使ってきました(古くは手書きレタリングでした)。
ところがデジタル放送で状況は一変します。今までの倍(面積にして4倍)細かい訳ですから、表現の幅が俄然変わるのです。

そういう訳で、それまで出版・印刷業界で培われてきたデジタルフォントの技術とノウハウが映像・放送の分野でも転用・活躍の場を得ることとなりました。今まで出版・印刷用にフォントを提供してきた大手メーカーが本格的な参入を始めたのです。
それでも明朝体はやはり横線が細いので放送用にエディションしなおした書体を使うのですが、基本的に印刷用デジタルフォントはバリエーションが多いので表現力がまるで違います。
ここ数年のデジタルフォント業界は、大手メーカーによる契約年ライセンスのリース制*1が定着しつつあります。古いシステム上で動くロック解除された違法フォントに業を煮やしたフォントメーカー側が編み出した策なのですが、逆に安価に高品質なフォントを大量に制作側が使えるようになりましたし、フォントメーカーに制作側の声も伝え易くなったので要望に沿った新しい書体が出易い環境にもなりました。そして、技術的・ライセンス的にも整備され、テレビなどの映像・放送業界もこのクオリティを享受出来る様になりました。これがフォントが美の壺の製作陣の目に留まったキッカケなのだと思います。
特にフォントワークスさんには非常に情熱を持った営業さんがいらっしゃり、数年前に前の職場に営業にいらっしゃた折「ボクたちの自信作をこれからは出版だけでなく、テレビ、ゲーム、アニメ業界に積極的に使ってもらいたいんデスっ!」と、これまた情熱的に語って下さりました。
テロップやスタッフロールや字幕に流れる美しい筑紫明朝ニューシネマなどを見かけるにつけ、そして今回の特集を観て、彼の努力が着実に実っているなぁと、ちょっと熱くなります。

*1:書体毎に契約ではなく、契約すれば膨大なメーカーのフォントが使い放題になる