誰かに音楽を伝えたいと純粋に思う境地

「昔は自分でお金出してCD作るなんてリスキー過ぎて考えられないと思ってたけど、今は時代が変わったね。制作からプロモーションから販売ルートから、僕らの音楽ならインディーズの方がメジャーレーベルより自由が利くし面白いことが出来る。」
とあるアーティストさんとの仕事での会話です。この日はデザインの打ち合わせがてらプロモーションの方法についても話をしました。アルバム宣伝用に1曲簡単なPVを作って動画投稿サイトにアップしたらどうかという話をボクが前から提案していたので、そろそろ始めようかということになったのです。彼は以前はメジャーレーベルから室内楽のCDを何枚も出していましたが、この度自分のソロアルバムをインディーズレーベルから出すことにしたのです。同じくアーティスト活動をされている息子さんがインディーズレーベルで非常にハイクオリティな仕事をされて、PVなども世間での評価が高いことも背中を後押ししたようです。
ボクはちょうど数日前に、同じ会話を別のアーティストさんと話したところでした。今やメジャーレーベルは〈テレビや映画、もしくは広告のタイアップありき〉でないと人気アーティストさんでさえCDを作ろうかという話になりにくいのだそうです。確かに数年前に大手のレーベルが撤退したり規模を縮小させていって、昨年などはボクはついに一枚もCDのデザインをしなかったのですからそうなんだろうと思います。
そして今年に入ってお受けしているCDのデザイン制作依頼はいずれもインディーズレーベルです。レーベル主宰者とエンジニア、アーティスト(書き手含む)、デザイナーというシンプルなチーム体制で仕事を進めていて実に風通しが良いですし、アーティストさんものびのびと音楽に打ち込んでおられます。そこにはマーケティング云々という市場の理屈とは別の〈音楽への純粋な眼差し〉があります。予算や初期ロット数も限りがあるので贅沢な作りは難しいですが、そういう時こそ皆の知恵の使いどころで逆に創作意欲をソソラレます。そうやって生まれた作品の方が結果的に作品としての純度が高く、良いものに仕上がっていると思います。
アーティストさんが自分の作品を自分で管理するスキルが必要になるものの、自分の表現に責任が持てる訳ですから、メッセージ性も強くなります。ファンにとってはこういう作品の方が良いにきまってます。だってその音楽は自分に向けられて発せられているのだから。
名を売り出したいタイプの超若手であればタイアップをひとつでも多く取ってアルバムをメジャーから出し、メディアに露出することを目標に頑張るのも間違ってはいないと思います。お金が動く規模も桁が違いますから個々人ではけっして実現出来ないようなプロモーションを討って出ることも出来ます。こういうスケールメリットの大きい体験も一度は通った方が良いと思います。
しかし、自分が〈誰かに音楽を伝えたいと純粋に思う境地〉に至ったときは、この方法では難しい世の中が来ているのだと思います。