千里の道


横浜は赤レンガ倉庫のMotion Blue yokohama大江千里さんのライヴ。emixは彼の筋金入りfanでして、アルバムもシングルも全て持っているのです。のに、今日の今日まで彼のライヴにまともに行った事がなかったのです。その初めてのライヴがポップ・スターとしての彼の、ではなく、ジャズピアニストとしてアメリカでの勉強を終えての、アメリカの仲間を連れてのジャパン・ツアーとは!
40も後半になって、しかも日本でミュージシャンとしてキチンとした成功をしているのに、あえて挑戦のために日本での仕事を全てオヤスミして、ニューヨークのニュースクール大学で一からジャズを勉強する・・・なんて、なかなか出来るものではないです。
ここまでキャリアがあるのなら、今の実力を応用してもソレナリに過ごせるはずなのに、彼は渡米を決意する前に東京のショウウィンドウに写る自分の姿を見て「しっくりこない」と思ったそうです。それなら前からずっとやりたいと思っていたジャズの勉強を退路を絶ってやろうと。次の自分の扉を開けるために。それで荷物2ケースくらいと犬の「ぴ」以外は整理してしまって、ニューヨークに渡ってしまったわけです。
で、ここからがスゴい。行ってみたら、半分くらいの歳の同級生たちにも通用しない実力の自分の姿があった。でも彼は落ち込むかと思いきや、その子たちの指遣いを携帯写真で撮ってまで研究を始めるんです。「扉を開けたら、次の部屋に2つ扉があって、それを開けたら10くらい扉が出てきて、やっと卒業の扉を開けたら、まだ山の麓だったという・・・」と彼はインタビューでも語っていますが、50もとうに過ぎた人がキャリアのない若者の笑顔で夢を語っている。自分がNYで勉強してきたことを面白そうに話す。ボクはそれまで大江千里といえばemixが贔屓のアーティストでそれほど興味の対象ではなかったのですが、思わず唸ってしまいました。ボクは彼を本当に見習わなければならない。
さて、ライヴはピアノトリオに3ホーンズ(2本のTSと1本のTP)という編成で、全編が千里さんのオリジナルでプログラミングされていました。内容はNYスタイルをキチンと学んだクレバーなサウンドで、ジャズピアニストとしての大江千里の個性が爆発、という感じではありませんでしたが、これからの活躍を期待させるものでした。
かつてはドーム球場で何万というオーディエンスを前に歌い、駆け回っていた彼が、200人のライヴハウスで本当に嬉しそうにピアノを弾いている。ほかでもない次の千里の道の一歩のために。

Spooky Hotel(DVD付)

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