追憶の世界旅行

両親が今度は中央ヨーロッパの旅へ出かけるという。チェコ、ハンガリー、オーストリー、いずれも音楽の都だ。
仕事でハワイにしか行ったことのないボクと違って、両親はアフリカ大陸以外はたいてい制覇してしまった。
子供の頃、家の本棚には世界各地の名所を紹介した大判のセット物の写真集が、レコード・ラックにはこれまた世界各地にまつわるムード音楽を集めた写真つきのアルバム全集があって、家族みんなでよく見たり聴いたりしていた。
母親のお気に入りテレビ番組は『兼高かおる世界の旅』。「そうなんですの」と嬉しそうな兼高さんのコメントが映像と共に流れる度に「あ〜、行ってみたいわぁ」とため息をもらしていた。当時は転勤続きで何かと入り用だったんだろうし、渡航費も高く、とてもじゃないけどさらにイチビリなガキンチョ2人も連れてなんて夢のまた夢だったろう。
二人にとって、初めて行く土地は新鮮だろうし発見も多いと思うけど、ボクには、あの頃の、あの本・あの音楽・あのテレビ番組の中に出掛けてるのではないか、昔行った「夢の世界旅行」を、二人が一つ一つ確かめるように、追体験しているのではないか、と思うのだ。
昔の自分達に出会う旅。歳を重ねるとは何と豊饒で美しいことか。