ユーフォニアムの樹 第2話

あれから10年。
ペーターは、隣町の楽器商で働いていた。彼の仕事は楽器のメンテナンスをすること。毎日、さまざまな人々が彼を訪ねてやってくる。そう、彼のリペアの腕はピカイチ、この辺じゃ右に出る者はいない。電車やバスを乗り継いで半日もかけてやってくる客もいる。それだけ彼の腕には定評があるのだ。
「おーい、ペーターはいるかー?」
「はい、いらっしゃいませ! なんだ、ジョンじゃないか。どうしたんだい。」
ジョンはこの楽器商の常連。今はセンターシティのオーケストラで打楽器奏者として活躍している。ハイスクールでは、音楽の成績は下から数えた方が早かった彼も、大学で猛勉強してオーディションに合格。茶目っ気たっぷりのルックスも手伝って、彼が出演する公演の日にはファンが殺到する。オーケストラの名物奏者というわけだ。
「なんだ、じゃないだろ。オレはお客として来てるんだぞ! このあいだ預けたスネア、もうできてるかい?」
「あぁ、これだろ。今ちょうど響き線の留め金の微調整をしていたところなんだ。もうちょっとでできるから、そこで待っていてくれ。」
そう言ってペーターは、手際よく作業を続けた。ジョンのスネアドラムは、ペーターの手によってピカピカに磨き上げられている。新品といっても誰も疑わないほどだ。
「いつ見ても、お前の腕はスゴいなぁ。どんなに壊れても、楽器が生き還るんだからな。」
「おいおい、だからって壊さないでくれよ。今回だってタイヘンだったんだぞ。どう使ったらそんなにボコボコになるんだ?」
「そんなコト言ったって、オレが壊さなかったらお前は喰っていけないだろう?」ジョンの相変わらずの口利きにペーターは苦笑い。まったく、おまえはいつもそうだよなぁ・・・
そこへお客が一人やってきた。「こんにちは」長い髪をきれいにカールした、ピンクのワンピース姿の若い女性が、楽器商の木製のドアをゆっくり開けて入って来た。日よけ用の大きな白い帽子をはずすと、ほのかにシトラス系の甘酸っぱい香りがした。「腕利きのいいリペアマンがいらっしゃるという楽器屋はこちらですか?」ペーターはその、どこかで聞き覚えのある声に顔をあげ、驚いた。
「クララ? クララじゃないか! オレだよ。ジョン。ジョン・パーカスだよ! 久しぶりだなぁ。」
声をかけたのはジョンのほうだった。久しぶりの旧友との再会に、ジョンは飛び上がって喜んでいる。「ペーター! ほら、クララだよ。いやぁ、キレイになって・・・。」
「今日はもう店じまいです。お客様、お引き取り願いませんか。」ところがペーターは、きっぱりそう言うと裏の工房に引っ込んでしまった。
「なぁペーター、久しぶりの再会だってのに、どうしたんだい? それともまだあのときの事を・・・」
 
参考*第一話(id:otoshimono:20070605)
 

金管まつり2007〈★★★★★(五つ星)〉
日時:2007年06月23日(土)
   14:00開演です!
会場:さいたま市民会館うらわ 入場無料