凱旋

大病を患ってこの夏に入院し、7時間に及ぶ大手術を乗り越えて療養中のボスが、先日久しぶりに事務所に顔を出した。ボスの外見はルパン三世に似ていて飄々とした痩せ型なのだが、病名を全スタッフに告げて事務所を後にした時からさらに10kg以上痩せている。しかし、いつもより20歳くらい老け込んで見えたあの日より格段に生気が漲っている。纏う空気が温かで崇高にすら感じる。前より明らかに人として大きい。これが一度死と真剣に向き合って闘い抜いた人の姿なんだ。
ボスは弱いところとかプライベートを見せるのが嫌いなので、ボクは病院に行かないようにして、この夏は休みも取らずにひたすら事務所で仕事をし続けてボスの帰還を待った。デザイン(仕事)の師匠であるボスへの思いはデザイン(仕事)でしか表現が出来ない不器用な弟子である。
だから、いつもの席に腰掛けて飄々とフルーツサラダをつまんでいるボスを前にして「よくご無事で」と言うのが精一杯で泣きそうになったから、術前術後にボスとメールでやりとりしていた仕事の話をひたすら続けた。ボスとデザインの話が出来るのが何より幸せだ。


数時間滞在して「また来週からボチボチね」と言って、ボスは事務スタッフに伴われて帰宅した。別れ際のみんなの笑い声がひたすら明るい。
凍りついていた夏の時間がゆっくりと解けはじめていた。