絵に描いたコロッケ

むかし私がサラリーマンだったころ、社員旅行の途中でどうしても帰らねばならない用事があり、三島市内の国道一号線沿いで観光バスから降ろしてもらったことがある。タクシーをつかまえて駅まで行こうと思ったのに流しのタクシーが全く走っておらず、結局、何故かバストロンボーンを背負っていた私は3キロを行軍する羽目となった。
それで駅前にさしかかろうとしたとき、奇妙なノボリが道行きにはためいていることに気付いた。
「コロッケの街、三島」
・・・は?
静岡というところはまったくもって不思議なところだ。異常なまでにB級グルメというものに執着する。浜松の餃子、静岡のおでん、富士宮の焼きそば、富士のつけナポリタン、そして三島はコロッケ・・・何故に? この県のB級グルメなるものは素材と土地の関連性が全くもって不明なところが解せぬ。
私はその因果関係を調べるべくコロッケを喰らうべきだったが、新幹線の時間が迫っていた。「コロッケいかがすか〜」という声を背に先を急がずにはいられなかったのが悔やまれる思い出である(どうやら三島馬鈴薯が名産らしいと後日分かった)。
 
・・・そんなことはすっかり忘れていた私の目の前に今日、一台のバスが目に留まった。場所は新宿ヨドバシカメラの前のバスターミナル。資料の雑誌を探しに出向いた楽器屋で「otoshimonoさんが注文していたトロンボーンスタンド、隠してたけど到着してます、ムフ♥」と関西弁でタタミ込まれ、本日予定外の出費と重みにヒーコラいいながら歩いていた目の前にである。

あの時と同じだ。何故、重いモノ(それもトロンボーン関係)を持って歩いてるときに限って出てくる三島コロッケよ。しかも今回はラッピングバスなので絵に描いたモチならぬコロッケだ。
多少の恨めしさを胸に秘めながら「いつか喰ろうたるぞ、三島コロッケよ」とトロンボーンに誓った。