Adobe-Japan1-6

今年もモリサワからMORISAWA PASSPORTのアップグレードがリリースされて我が仕事場にもやってきた。今年はサービス始まって以来の大規模なアップグレードになった。秀英体・築地体のラインナップが増え、筆書体の充実、旧リョービ書体の統合、Font Bureau社の欧文フォント、アジア圏のフォントの充実など、目移りして目眩がしそうなくらい。
・・・なんだけど、ボクにとって嬉しいのはAdobe-Japan1-6準拠の書体が増えたことだ。Adobe-Japan1-6というのは2004年6月11日発表の23,058グリフ(簡単に言えば文字の数)を内蔵できるフォントの規格で非常に多くの外字や異字体が含まれる*1
通常のエディトリアルデザインやDTPの仕事ではこんなに多くのグリフは必要ない。せいぜい戸籍や地名等で多くの異字体を扱わなければならない自治体か印鑑屋くらいのものかもしれない。だいたい人名と地名以外は常用漢字で事足りるのだ。ちなみに11月30日に平成22年内閣告示第2号「常用漢字表」として内閣告示されたのは2136字(2352音・2036訓)くらいしかないのだ。ところがそうもいかない書籍のジャンルがある。日本語辞書だ。
ボクは今、いくつかの日本語辞書の図書設計の仕事を抱えている。辞書を出版する版元は専用書体を持つところも多く、その特徴ある形に親しみを覚えておられる方も多いと思う。しかし近年、辞書の図書設計も競合他社とのデザイン上の差別化や合理化のため、フォントベンダーのサービスを利用して多彩な書体を扱いたいという希望が増えていることも事実だ。
そこで引っかかるのが書体によるグリフ数である。義務教育の子供に向けた辞書であれば、文部科学省の定める学習漢字と常用漢字の範囲内でなんとか収まるのであるが、高校生以上の社会人が扱うものとなるとそうもいかない。普段は使わない、一見して読めないような難解な漢字やその異字体が1000ページ規模・三段組みギッシリの中に突如として現われる。その都度組版担当者が外字として作成していてはラチがあかない。
こういう事態に今までまともに対応出来た明朝体はモリサワのリュウミンシリーズくらいのものだったのだが(ゴシックは駅名や道路の案内表示にも使うためか、割と充実している)、今回はこれに黎ミンと秀英明朝の多くが加わった。本文書体選びにバリエーションが増えて大変有り難い。
あと、検定教科書の仕事も請負うことがあるボクとしては学参書体についても色々考えを巡らせているのだが(今回はそこについては注目するアップグレードはなかった)、それについてはまた後日。

*1:多くのフォントはAdobe-Japan1-3の9,354グリフ、Adobe-Japan1-4の15,444グリフに準拠しており、普通はこれで充分事足りる